社会福祉法人

【社会福祉法人ききょう会 吉沢学園】「人と人とが つどい・ふれあい・つながるカフェ」~障害者支援施設が運営するファミリアTABIでの取り組み~

利用者のやりがいが集う場所、TABIcafé

障害者支援施設吉沢学園は、国が社会福祉法人に「地域における公益的な取組」を先導していく役割を求めていることに加えて、学園の日中活動の場の拡充を目的として、2020年1月に活動拠点「ファミリアTABI」をオープンした。ファミリアTABIには、地元田尾にちなんで「TABIcafé(タビカフェ) 」と名付けられた喫茶店があり、「人と人とが つどい・ふれあい・つながるカフェ」をコンセプトに、知的障害者と職員で運営している。開設当初は新型コロナウィルスの影響を受けたものの、質の高いランチメニューや、市原鶴舞バスターミナルに隣接した立地、カウンターテーブルからの眺めの良さなどから評判になり、現在では多くの方々が集う場となっている。

ファミリアTABIは、知的障害者が作業や仕事をする日中活動の場である。こと吉沢学園の場合は、入所している60名のほとんどが重度の知的障害を抱えており、単独で作業や仕事をする事や地域での就業は困難だ。それだけに利用者の日中活動の場ができた意義は大きい。中でもTABIcaféには、吉沢学園や法人内の近隣グループホームから、多くの利用者が通って仕事をしている。

カフェの名物の一つは、月〜金曜日に実施する日替わりランチだ。昼時ともなれば忙しさが増すが、フロアスタッフとして配された2名の利用者が、食事の配膳などで大きな力になっている。加えて、カフェ内には手作りパン工房も併設し、東京の有名ホテルで腕を振るったシェフと、知的障害者が協力して生地から手作りの焼きたてパンを提供している。

数あるメニューの中でも、小麦粉やバター、生クリームをふんだんに使用した「高級食パン」は、柔らかくもっちりしておいしいと好評だ。これ以外にも、室内活動では機能訓練の一環として、手提げ付きの紙袋を制作。これは、プラスチックごみ削減を兼ねたカフェのレジ袋として、来店者に無料で利用してもらっている。さらに、カフェ周辺では、敷地内の畑での野菜作り、芝生や花々の手入れ、散策と合わせた地域のごみ拾いも取り入れるなど、心身の状態に応じた作業活動が、利用者のやりがいや励みになっているという。

活用方法はさまざまに、人と人とが触れ合う場

TABIcaféは新型コロナウィルスが流行していた2020年にオープンしているが、それが思わぬメリットを生んだこともあるという。吉沢学園を例にとれば、重度の知的障害者はどうしてもマスクができない、社会的なルールが理解できないことが多く、行きつけのレストランに入れなくなってしまった。施設利用者は出かける、食べる、飲むといった、直感的な行動に喜びを感じるため、それが突然奪われれば、パニックを引き起こしかねない。そんな時に、家族や仲間たちと楽しく外食ができるカフェの存在は、大きな安心につながった。同様の問題は他法人にも見られたため、コロナ禍にあった数年は、カフェを貸し切りにしてレストラン体験の場とすることで大いに活用された。

また、地域の方にとっても、近隣に食事が楽しめる場所ができた意味は大きいようだ。興味本位での来店や、近所のお茶会、仕事の打ち合わせなど、それぞれの利用方法で、カフェが触れ合いの場になっている。店内には朝採れ野菜を販売するコーナーも設置されているが、これも地域交流の一つの形。今では、「障害者が働いているレストランができたね」と、話題に上ることが増えており、ここを媒介に吉沢学園や障害者への理解をより促進したい意向だ。

食のバリアフリーから地域のつながりを再構築

オープンから3年が経ち、TABIcaféはすっかり地域の顔になった。今後はより人とのつながりを形作れる場を目指し、さまざまな施策を考えている。その一つが、食のバリアフリーだ。吉沢学園は開設から30年以上にわたり障害者を見守ってきたが、地域でも嚥下の問題や経管栄養によって通常の食事が困難なケースは多い。一方で、外で食事を楽しみたい希望は根強いため、摂食困難な方向けのメニューを考案中だ。通常のレストランでは対応できないオーダーだからこそ、TABIcaféがやる意味がある。身体の状態に応じたメニューによって、誰もが分け隔てなく、楽しく食卓を囲めるようになることが目標だ。

このほかにもファミリアTABIでは、農業体験の実施に向けて地元農家と連携を進め、その傍ら近隣のゴルフ場の刈った芝と象のフンなど、これまで棄てられてきたものを利用した堆肥作り、竹炭作りの部隊が始動した。変わり種としては、カブトムシの養殖を目的に「ビートルズファーム」も発足しており、試行錯誤を続けている。

多様な施策の背景について林壽美子理事長は、「当学園の方針は、職員に熱意があって、それが利用者の利益につながれば、何でもチャレンジさせること。楽しんで活動することが自然と利用者の機能訓練になり、やがて地域に還元されれば、これほど嬉しいことはない」と、これからも職員の奮闘を後押しする考えだ。

ファミリアTABIが幹となり、多様な施策が枝葉となりはじめた今、この取り組みの継続が、人と地域の活性化を促し、やがては地域共生の一端を担うに違いない。