「捨てずにつなぐ」が共感を得る、新サービス
多くの企業がサステナブル、エシカルといったキーワードで、生産から使用、廃棄に至るまで環境への負荷を考慮した取り組みを進める近年。energy closetはそんな時代背景の中で誕生し、ファッション業界やSDGsに一石を投じる存在として注目されているブランドだ。
事業の軸はCLOSETtoCLOSET と名付けられた、衣類のエクスチェンジサービス。事前予約制で入場チケットを買うことで、自分が持ってきた三着の洋服と交換で、店内の洋服を三着持って帰れる服の物々交換システムを採用する。大切にしたのは、流行り物よりも、きちんとバトンをつないでいく「場」として機能し続けることだ。起業当初はビジネスモデルの難しさや特異なメッセージ性から、なかなかこのスタイルへの理解が進まなかったこともあるという。
一方で当サービスは、起業1〜2年目には業界内で注目され、有名百貨店などからの声かけが続いていた事実もある。それでも、当初はユーザーとの関係を地道に築く中で店作りをしたい意向があり、百貨店のように大々的な告知から集客するような企画は意図的に避けていた。しかし、事業開始から3年が経ち、理念への共感と世の中の認知度の高まりを感じていたことから、2022年は全国8都市を巡るキャラバンを開催。各地で地域性を踏まえた企画を打ち出し、盛況のうちに終了している。会社の運営は基本的に一人だが、気づけばCLOSETtoCLOSETに通い続けたユーザーが、試着の手伝いから始まり、SNSでの情報発信、衣服の搬入なども手伝うなど、ファンの輪も広がり続けている。
店舗を持たない、自前の服も置かない、このブランドがなぜここまで支持されるのか。三和沙友里代表は、「おそらく、皆が洋服に対して抱いていた“好きな物を大切にしたい”という、身近な願望を具体化したことが、共感を得たと感じる。日本人には着物を着ていた感覚で、物を上手に使い回して、自分の体になじませるファッション感があり、そこに響いた側面もあるだろう」と人気の理由を語る。
不要になった服の魅力を再び照らしたい
同ブランドは、2021年に縁あって千葉県市原市の古民家に拠点を移した。最初は慣れない田舎暮らしに苦戦したが、反面、地域の温かさや知恵に何度も救われた。そんな地の素晴らしさを継承したいと、開催しているフリーマーケットが「たなぼた市」だ。
ファッション感度が高い、不特定多数のターゲットに向けたサービスがCLOSETtoCLOSETならば、たなぼた市はそれとは真逆の方向性を持つ。集客方法は口コミと現地の集客のみ。開催場所は、小湊鉄道の駅から徒歩10分のレンタルスペースと、この辺りもSNSを駆使したほかのサービスとは一線を画す。しかし、会場には本当に人づてで集まった方同士が、物を交換し、使い方を教え合う、温かみのある雰囲気が広がっている。ここでは、ほかのサービスとは、客層も目的も違うからこそ、物がうまく循環する仕組みが構築されている。
そして、今最も伸び代を感じているサービスがupHANDだ。これはCLOSETtoCLOSETで集めた洋服を、アップサイクルして販売するショップで、「場」の側面が強かったCLOSETtoCLOSETやたなぼた市とは趣きが異なる。着られないものを着られる状態にする、リメイクやハンドメイドではなく、着られないものから新たな洋服を作る、アップサイクルしかしない点がこだわりだ。素材となるのは役目を終えた洋服たち。時には1枚の布や1本の糸の単位までほどき、再構築された洋服が、それぞれに違った風合いを持つ一点ものとして蘇る。
「自分はファストファッションが流行る時代に生まれ、ずっと、たくさんのエネルギーや人の思いが詰まった服を捨てることに忌避感があった。だからこそ、単に捨てずにリサイクルをするのではなく、その服が持っている魅力に再度スポットライトを当てられるサービスを考えた」と、三和代表は同ブランドの指針を語る。
ショップの購入者は単純にデザイン性やブランディングに惹かれる層もいるが、大半が、この理念に共鳴したユーザーである。同ブランドでは、upHANDの販売促進を進めることで、今後は衣類の廃棄削減の面でも貢献していきたい構えだ。
ファッション感も循環もあきらめない
起業から5年目を迎え、事業は当初の計画を前倒すほどに順調だ。しかし、同ブランドは現状に甘んじることなく、次のサービスに着手している。現在取り組むのは、アップサイクルワッペンの事業だ。不要になった布に刺繍を施し、そこからワッペンを作成することで、生地の最後まで使い切るアイデアだ。デザイン面でも、例えばデニムに刺繍すれば、微妙な色合いの違いから個性が出せる上、穴開きを隠したり、飽きた洋服に付け足したり、ワッペン本来の使い方を楽しむこともできる。
加えて、CLOSETtoCLOSETとupHANDをベースにした、新たなリメイク事業も見逃せない。実際に試験的にリメイクを行ったIT関連企業では、まず複数名の社員から不要になった洋服を収集。それらを素材に、社風や理念に沿ってユニフォームを製作し、そこにワッペン化した企業マスコットを添えて、ワンパッケージとした。受け取った社員たちは、リモート会議や取引先でユニフォームを着用し、企業の連帯感の醸成に一役買っているという。
「例えば企業では、スタッフで揃った制服を着る文化があるが、違和感を持つ人は多いと感じる。人生の中で仕事をする時間はとても長いため、そこに“ファッション感も循環も諦めない”を理念にする、私達なりの提案ができればと考えている」と、今後の事業展開にも意欲的な三和代表。同ブランドの躍進は、ファッション業界だけでなくSDGsの面でも、多くの人に有益な気づきを与える契機になるはずだ。